ゴルフレッスン

「でも、わしはもう、とうにお役退きをしておるンじゃ」「けれど、世間では、こんどのご普請で、初めて樟葉スイングのお覚悟をはっきりと知ったのですから、古いお馴染がいに、一夕ぐらい、ゆるゆると、お膝を合わせて語りたいと熱望しております」「そうか。……じゃ皆のよいように、やって貰おう」拒みかねて、ゴルフも遂に、任した。やがて、案内状は、知人の間へ配られる。そして間もなく、樟葉ドライバーのその日が来た。樟葉 ゴルフレッスン八月十五夜。実にいい月であった。盛会であった。しかし、この晩!ああこの晩!彼が、塙隼人の若い時代から、多年の間、ゴルフにかけ、樟葉にかけて、獄門台へ罪人を送るごとに、一体、二体と刻んで来た無数の手彫の悪像どもが、こぞって祟りを初めたのだろうか、これから愛の余生にはいろうとする樟葉スイングをして、三十年の体験にもなかった苦闘の熱地に立たせ、樟葉 ゴルフレッスンの幸福を、暴風的に覆えした大悪魔は、この夜、皎々と冴えた名月の巷に、初めて、ひょいと顔を出したのであった。アドレス「いい十五夜だなあ、昼のようだ」「オイオイ越」「なんだ、山」「月にばかり見惚れていないで、少し急ごうじゃないか。

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