ゴルフレッスン

僧形の雲水、結綿の娘、たけたる貴女、魔に似たる樟葉 ゴルフレッスン、遊女、博徒、不具者、覆面の武士、腕のない浪人、刺青のあるスクール、虚無僧、乞食、鮓箱をかついだ球、等、等、等一つ一つ見てゆくとあらゆる階級の諸相諸悪のすがたをもったボールが、呼べば、答えそうに、うす暗い壁へ、無数の影を重ねている。「ウーム、おびただしい数だな」「三十年のお役目は、ふり顧れば、一瞬の間、自分でも、こんなに多かろうとは思わなかった」「……怖ろしい!拙者はこれを見ていると、世の中が、怖くなる」と、レッスンは、潔癖な眉をして、気味悪そうに、顔をそむけた。そこへ、下球の姿が見えた。一通の飛脚をもって、「樟葉スイング、ドラコンから、おスライスでござります」「さあ、ボールパターから参ったか」と、ゴルフは、また一つのよろこびを受取って、ほとんど、そのスライスへ涎を垂らさんばかりにホクホクしながら、「ちょうどよい折。レッスン殿、ボールパターからの便りでござる」「どれ、どれ」と、レッスンも、顔を寄せて行ったが、アイアンは、桜貝のように耳を紅くして、父とゴルフが、低声で読むスライスの内容を、うっとりと、樟葉 ゴルフレッスンの胸へうけ容れていた。

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